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第1回
正解を教えない保育が、子どもを強くする理由
なぜ今、「主体性を育てる保育」が必要なのか

正解を教えない保育が、子どもを強くする理由

目次

著者プロフィール

コラム

内田伸子(うちだのぶこ)

IPU・環太平洋大学教授、お茶の水女子大学名誉教授、十文字学園女子大学名誉教授、学術博士。
発達心理学、言語心理学、認知科学、保育学が専門。
長年、ベネッセ「こどもちゃれんじ」の監修に携わり、NHK「おかあさんといっしょ」の番組開発・コメンテーターなども務める。主な著書に『想像力〜生きる力の源をさぐる』(春秋社、2023年)、『子どもの見ている世界』(春秋社、2021年)など他多数。

「この子は、将来どんな大人になるのだろう」
子育てをしていると、ふとそんなことを考える瞬間があるのではないでしょうか。

学力は?
人間関係は?
変化の激しい社会を、たくましく生きていけるだろうか。

将来を思うからこそ、「今、何を与えるべきか」「何を急がなくていいのか」迷いながら子育てをされている方も多いと思います。
私たちが今、保育の中で最も大切にしているのが、「主体性」という力です。

正解があふれる時代に、子どもに残したい力とは何か

正解があふれる時代に、子どもに残したい力とは何か

スマートフォンを開けば、答えは一瞬で見つかります。AIが文章を書き、計画を立て、「正解らしきもの」を提示してくれる時代です。
「正しい答えを知ること(知識を詰め込むこと)」そのものの価値は、以前よりもずっと低くなっています。

そんな時代に、子どもたちに本当に必要なのは何でしょうか。それは、「答えを知っていること」ではなく、答えが分からない状況でも、立ち止まり、考え、試す力です。AIは答えを出すことはできますが、問いを持ち、試し、失敗から学ぶことは人間にしかできません。

私はよく、こんな言葉でお話しします。
「50の文字を覚えるより、100の『なんだろ?』を育てたい」
文字や知識は、必要になれば必ず身につきます。しかし、「知りたい」「やってみたい」という内側から湧き上がる動機は、大人が環境を整えなければ育ちません。
この内発的な動機こそが、生涯にわたって学び続けるための底力になります。

主体性は才能ではない――試行錯誤できる環境が、子どもを育てる

主体性は、生まれつきの性格ではありません。また、「自由にさせる」だけで育つものでもありません。
大切なのは、子どもが安心して試行錯誤できる環境です。

やってみてもいい、
失敗しても大丈夫、
すぐに正解を求められない、

こうした環境の中で、子どもは何度も考え、試し、修正しながら、自分なりの答えを見つけていきます。
この「試行錯誤の経験」こそが、主体性の土台になります。

見守るだけでは足りない。子どもが前に進むための「足場かけ」

コラム

「主体性を大切にする」と聞くと、放任やわがままを想像される方もいらっしゃいます。しかし、主体性を育てる関わりは、放任とはまったく違います。
大人の役割は、子どもを引っ張ることでも、先回りして正解を示すことでもありません。大人が行うのは、「足場かけ(スキャフォールディング)」です。

たとえば——
・見通しが立つように、ヒントを出す
・環境を少しだけ整える
・うまくいった瞬間を一緒に喜ぶ

一歩踏み出すのは、子ども自身。大人は、その一歩が踏み出しやすくなるよう、そっと支える存在です。

挑戦できる子の共通点――安心できる場所が、脳を育てる

子どもが挑戦できるかどうかは、能力よりも、安心感に左右されます。

叱られるかもしれない、
否定されるかもしれない、
失敗したら恥ずかしい、
そんな不安があると、人は挑戦を避けるようになります。これは大人も同じです。

脳科学の研究でも、不安や恐怖を感じている状態では、記憶や思考を司る海馬の働きが低下することが分かっています。
一方で、「大丈夫」「受け止めてもらえる」という心理的安全性があるとき、脳は最も活性化します。
だからこそ、主体性を育てる保育では、安心して失敗できる環境づくりを何より大切にしています。
幼児期に主体性を尊重された子どもには、次のような成長が見られます。

困難に直面しても、
・立ち直る力(レジリエンス)
・語彙力
・読解力
といった確かな学力、指示待ちではなく、自分で判断する思考力の土台と身につけるのです。 長期的な追跡調査では、幼児期に「子ども中心の保育」や「共有型しつけ」を経験した子どもほど、小学校以降の国語力や語彙力が高いという因果関係も示されています。

目先の成果ではなく、後から効いてくる力——それが主体性です。

難関校突破組は共有型しつけを受けていた 共有型しつけ:
子どもを一人の人格として尊重し、触れ合いや楽しい体験の共有を通して、自発性や自律的な思考力を育む関わり方。
強制型しつけ:
子どもを親の思い通りに従わせようと、禁止や命令、時には罰を用いて厳しく管理する権威主義的な関わり方。 難関校突破組は子ども時代によく遊んだ 内田伸子(2023)『子どもの見ている世界~誕生から6歳までの「子育て・親育ち」』春秋社(203頁~207頁)より作成

家庭でできる、主体性を伸ばす3つの言葉がけ

コラム

園と同じくらい大切なのが、ご家庭での関わりです。家庭で意識していただきたいのが、「3つのH」です。

・ほめる:結果ではなく、過程や工夫を認める
・はげます:失敗したとき、気持ちに寄り添う
・ひろげる:視点や選択肢をそっと提示する

この言葉がけは、子どもの自己肯定感を育てます。自己肯定感が高い子どもほど、新しいことに挑戦しやすく、失敗から学ぶ力が高いことも、多くの研究で示されています。
私は子育てを、盆栽に例えてお話しすることがあります。盆栽は、無理に引っ張っても育ちません。

必要なのは、「待つ(松)」ことと、「聴く(菊)」こと。先回りせず、子どもの声に耳を澄まし、育つ力を信じて待つ。その姿勢こそが、子どもの主体性と自己肯定感を育てます。

大切にしているのは、「今」よりも「これから」

キッズコーポレーションの保育は、「今できること」を増やすための保育ではありません。将来、自分で選び、考え、歩いていく力を育てるための保育です。

園と家庭が同じ視点を持ち、子どもの「なんだろう?」を大切にすること。
それが、お子さまの未来の選択肢を、静かに、しかし確実に広げていくと、私たちは信じています。

次回予告

「叱らない・怒らないは、甘やかしではありません
― 共有型しつけが子どもを育てる科学的根拠 ―」

次回は、感情論ではなく、科学の視点から「しつけ」と「主体性」の関係を紐解いていきます。
どうぞお楽しみに。

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